私の好きな人は…

あまりにも突然すぎる告白に、私は驚いてしまいました。その前日に、SNSで気になっている人から告白され、その翌日には信頼している部下から告白されたのです。まったく想像さえしていなかった展開に、ただ驚くばかりでした。

もちろん、その部下は女性として魅力的であることは確かです。あくまで、彼女は部下ですが会社を出て、今はプライベートな時間ですので、このまま彼女の告白を受け入れたとしても特に問題はないでしょう。それに、私の会社はどういうわけか社内恋愛を推奨しているようなところがありますので、彼女と交際をはじめたとしても、何の問題もありません。

ですが、私には彼女を受け入れることができない理由がありました。それは、SNSの彼女の存在です。私は確かに彼女に惹かれています。 直接会うことだって難しいかもしれません。そして、お互いの顔だって知りません。私は嘘をついていませんが、ネットの世界では簡単に嘘をつくことができます。なので、私がネットでやりとりをしている彼女は嘘で作られた実在しない女性なのかもしれません。

それでも、やはり私は彼女のことが好きだと、こんな場面ではっきりと実感しました。

私には好きな人がいるから…

彼女の告白に対して、とにかく何らかの答えを出さなければなりません。真剣に告白してくれたのですから、それに答えるのは当然のことでしょう。 ここで、彼女の告白を受け入れれば、もしかするとその先に幸せな未来が待っているかもしれません。ですが、私には好きな人がいるのです。

なので、正直にそれを彼女に話すことにしました。好きな人がいること、そして彼女SNSで知り合った人で、一度も会ったことがない、ということ、そして、これからも会えるかどうかわからないということも、すべて話ました。

彼女は黙って私の話を聞いてくれていました。もしかすると、バカにされてしまうかもしれないと覚悟していましたので、少し意外に感じられました。 10代や20代前半の若者であればまだしも、私のような中年にさしかかった男がネット上の人を好きになった、なんて言えば笑われても仕方ないかもしれません。私だって、誰かからそんな話を聞かされたら、笑いはしないにしても、考え直すようにアドバイスしてしまうかもしれません。

それなのに、彼女は真剣に私の話を聞いてくれました。そして、私が話終わると、またいつもオフィスにいるときの笑顔に戻って、ビールを追加注文しました。

「係長も飲みましょうよ。今日はお祝いです」

なんだか彼女の言っていることがよく理解できませんでしたが、私の考えていることは伝わったようです。私も素直にジョッキに残ったビールを一気に飲み干しました。

若くて魅力的な彼女ですので、私なんかよりずっといい男がいるはずです。少なくともそれまでは上司として見守ることができたら…なんて、少し余裕ができた私は勝手なことを考えていました。

SNSの彼女から連絡が来ていないかが気になりましたが、目の前にいる彼女にすべてを話してしまった以上、この場でチェックすることはできません。さっきから、ポケットの中で何度か入っている通知が気になりますが、あえて気づかないふりをして、彼女と一緒にジョッキを傾けました。

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